シューベルト国際ピアノコンクール優勝、スクリャービン国際ピアノコンクール優勝、ブゾーニ国際ピアノコンクール入賞、他、数々の受賞歴を持ち、 世界各国の名門交響楽団と共演、今や、ドイツを中心にヨーロッパ全土で活躍する期待のピアニスト、川島基が晩秋の芦屋でその真髄を奏でる。
2010年11月14日★コンサート後記
この日は朝から快晴。川島さんはお昼前に、岡山のご実家からサロンにお越しになりました。岡山では、母校の高校にてオーケストラ部の生徒さん達とベートーベンの「皇帝」を演奏されたとのこと。アマチュアとはいえ、高校生の皆さんのやる気と潜在能力の高さに頼もしさを感じ、大変良い音楽会になったと仰っていました。さわやかな笑顔にその手応えの程が滲みます。
セイドーのコンサートは、アーティストの皆さんは、サロンというホールよりアットホームな空間ということもあってお話をされながら演奏会を薦められる方が多いのですが、川島さんは「いやー、僕、演奏会に入ったらしゃべれません!ご勘弁を!!」と。川島さんの演奏家としての実直で生真面目な面を垣間見た気がして、なんだかとても微笑ましいなと思ってしまいました。
演奏会は、実に柔らかで深いショパンのノクターンから始まりました。シューマン、そしてベートーベンの「月光」。それぞれの時代にやはり実直に生きたであろう作曲家達一人一人の息遣いが川島さんの感性を通して、時を超えて私たちに伝わって来ます。後半はシューベルトのソナタの大曲。派手さや華麗さとはほど遠い、けれども真摯で深淵なシューベルトの音楽は、川島さんの今までの音楽人生の歩みを彷彿とさせるようで、演奏が進むにつれ、会場もまるで大作の小説を読み進んでいくかのような緊張感と集中力に満たされました。声高に何かを訴えるのでも、感情を吐露するのでもなく、もっと淡々と、何かを訥々と語るような感じで、だからこそ私たちに湧いてきたものも派手な感激ではなく、内から湧いてくるような感慨のようなものだったような気がします。
いつもサロンにお越し下さる女性のお客様は「一つ一つの音にあんなにも集中して心を込めて演奏されるなんて!その姿にまず感動を覚えました。」と感想を語られました。また、別の男性のお客様は、「じっと不動の精神で真剣にピアノを弾いて下さった。その熱意が素晴らしい。ああいう若い世代の人がいるんだね。」と、まるでご自分の息子さんを見るような目で語られました。
演奏会後、川島さんはドイツでの生活のこと、音楽のこと、色々お話下さいました。その中で最も印象的だったのは、日本人としてドイツでヨーロッパの音楽を奏でる演奏家としての立場のこと、そしてこれからのクラシック音楽の行方についての危惧とご自分の役割について真剣にお考えになっている事でした。今やCDやDVDが何時も手に届くところにあり、演奏会に足を運ばなくても気軽に音楽を楽しめる時代です。それはそれで良いのかも知れません。けれど、やはり、人間なのだから、同じ空気を共有して、お互いに反応し合い、お互いを高め合う形で音楽に触れて欲しい。特バーチャルな世界が当たり前になって行く若い世代の人たちにこそ、演奏会に足を運んで、五感を使って味わって欲しい。それが川島さんと、セイドーの一致した思いです。
川島さんはドイツに渡られてからもう12年になるそうです。「そろそろ日本が恋しくなってきました。」とのこと。きっとドイツでも忙しく演奏会に飛び回って活躍しておられるのでしょうが、川島さんのような、本場での経験豊富な若い気鋭の演奏家さんたちに、そろそろ日本に帰ってきて欲しいなあというのも日本の音楽ファンの正直な気持ちです。
川島さん、素晴らしい演奏会を有り難うございました。